茜さす夏/弓束
いった。
風鈴が涼しい音を立てるが、蒸し暑い気候に肌は汗を噴出すことを止めない。健二さんが寝た頃には掛かっていた薄い布団も、いつの間にか跳ね除けられて寂しそうに皺だけを残している。
夏みかんの芳しい香りが部屋に立ち込め、壁がそれを吸い込む。
家の前のとおりを自転車が駆けていき、それに伴ってどこか騒々しく、それでもふわふわと微笑んでしまいそうな子供たちの声が聞こえる。
それなのにここは、静かだ以外の形容動詞を寄せ付けないと言っても過言ではないほど、沈黙に征服されている。わたしたちは健やかな体でそれを拒まず受け入れているだけだ。
「……どこか、もっと寂れた場所。それでいて自然に満ちた
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