ラストシーン/んなこたーない
1
そのときぼくは、病室の硝子窓に額を強く押しつけていた。
室内はとても清潔だった。舌を噛み、顰め面を浮かべたぼくは、
見知らぬ突然の抱擁のように、背後の扉をノックする、
<ラストシーン>について考えていた。
2
笑っている男の人たち、踊っている女の人たち。
薔薇の刺青と塩辛い口づけ。空腹の皿。洗いたての虫歯。
犬が吠え、夜はマヨネーズを排泄する。
退屈な灰のシガレット。青い煙りが辺りにたちこめ、
誘惑のスポットライトが別れのハーバーライトと交差する。
黒い手袋のピアノ弾奏。ハードバップのトイレットペーパー。
狂気の表情の天使たち。飛び散る汗を光らせて、こ
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