皆殺しのための100行/大覚アキラ
 
それじゃあまるで
私たちはみんな
人殺しじゃあありませんかお父さん
母は刃渡り30センチの出刃包丁を握り締め
台所に突っ立っていた
母の頭の向こう側にはオレンジ色の電球がユラユラと揺れ
まるで聖母か鬼子母神のごとく
ああ
この人は確かに私の母なのだと
ふいに再確認した
落ち着け母さん
母さん落ち着くんだ
父はさっきまでの達観した口調から一変し
しどろもどろになりながらまくし立てる
つまりは覚悟だ
いや意味だ
所詮は物語だ
というか言葉だ
そう言葉
言葉だ
言葉の問題だ
例を挙げてみようか
おまえのことを母さんと呼ぶ私は決しておまえの息子ではなく
私のこ
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