皆殺しのための100行/大覚アキラ
 
っていった
言葉の誕生以前は
すべてが
意味もなく喚き散らしたり吼えたり泣いたり寝そべったり
どうしようもなかったのよ
ホントに手がかかる子で

母が苦笑しながら台所から現れた
右手には味噌汁茶碗
左手にはカレイの煮物
テレビでは死刑制度の是非について
いわゆる知識人どもがお互いを口汚く罵りあいながら
白目を剥きながら議論している
新聞越しに醒めた目つきでブラウン管を眺めていた父は
やがておもむろに語り始めた
殺すという言葉を口にすることは甚だ容易い
だがしかしそこには覚悟がなければならない
殺すという以上は
自らも殺される可能性があるという覚悟だ
その覚悟
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