自分は見た/んなこたーない
れも女の仕事のひとつらしかった。
一通り話し終えると、ぼくは上着のポケットから紙切れを取り出し、女に手渡した。それはぼくが自作した詩の断片で、とても稚拙でとても猥褻な内容のものだった。ぼくは女に朗読するよう指示をした。
女は数行ほど読むと、おもむろに顔を上げ「こういうのが好きなんだ?」と聞いてきた。ぼくが何とも答えず、まじめな顔をしているのを見ると、女は気まずそうにまた最初から朗読をやり直した。それはまったくぼくの趣味ではなく、当然何ら興奮することもなかった。場にいささかしらけた空気が流れた。
「われわれの世代がもっとも尊重する人間の特質とは何か。それは何事にも熱中しないということ、そ
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