自分は見た/んなこたーない
 

 「あのね、実はきみの本当の名前はリッキーというんだ。リッキー・ティッキー・タビー。ね、思い出しただろう? そう、ぼくの名前はリップ・ヴァン・ウィンクル。ぼくらは共に時間旅行の物語に生きているんだ。六十分八千円の風俗店。偶然にもぼくらはその寂れた場末の一室で交差して、それからまたそれぞれ孤独な時間の牢獄のなかへと帰ってゆくんだ。でもね、それは決して悲しいことなんかじゃないんだ。ぼくらにとって空間とは、レシプロエンジンのようなものにすぎないんだからね。ぼくの言っている意味がわかるだろう?」
 女はぼくが気が触れていると思ったに違いないが、話の間じゅうずっと興味深そうな態度を示していた。それも
[次のページ]
戻る   Point(3)