自分は見た/んなこたーない
 
を拒絶する。それを唯一の美徳にしようと思う。
 現代では、金というものは必ず悪と密接に結びついている。悪とは人間的な行為なのである。悪に参加するのならば、そのなかでもより主導的な立場を目指すべきである。それだけが態度として唯一潔癖なものであり、それ以外はみな不潔で非人間的でさえあるよう思われる。もしも悪そのものが根絶されるとしたならば、そのときぼくは聖職者であり、詩人であり、殺意なき殺人者であり、同時に「迷路の住人」である資格を失うだろう。

 電車を降りると、まっすぐ便所へ向かった。顔と手を洗い、こびりついていた血を綺麗に落とした。その便所ではスーツ姿の男が一人、便器に頭を突っ込んで蹲って
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