自分は見た/んなこたーない
ぼくの靴も脱ぎ捨ててあった。あたりに人の気配は感じられなかった。ここでも一瞬ためらったが、足音を忍ばせてそのまま部屋を出た。
マンションの玄関を出ると、とりあえずでたらめに歩き出した。すれ違った人にここがどこで駅前に出るにはどうすればいいのか尋ねようと思った。しかし気が緩んだせいか、徐々にまともに歩くことすら出来なくなってきた。電信柱に凭れかかって嗚咽をくり返していると、頭の中に次々と疑問が浮かんできた。その脈略のなさは余計にぼくを疲弊させた。そして結局ぼくは、その疑問のどれひとつとして満足のゆく解答を与えることが出来なかった。ふいに「ぼくは迷路の住人である」というフレーズが思い浮かんできて、
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