夜明け前 〜老婆の言霊〜 /服部 剛
 
雪国へ旅に出る僕に 
(「きたえるつもりでいってきなさい」 
( 語りかけた嗄れ声 

( そして
( いつの間にか忘れていた
( いくつかの節目

( 意気揚々と船出したあの日 

( 自らの弱さに泣いた挫折の夜 

山々の輪郭から
朝陽の光が漏れ始める夜明け前 
ましろさを増してゆく雪原に
うっすらと消えかかる
いくつもの夢のしゃぼんから 
老婆達の響いた言霊は 
近頃
なかだるみでていたらくな
私に語りかける 

( のびきったからだを、起こしなさい 

( ほんとうの愛をつかまえなさい 

腐った瞳のまま海に浮く
私は屍の魚
だった 
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