窓辺の花/服部 剛
 
定年後 
趣味で油絵を始めた親父が 
キャンバスに向かい 
一枚の絵を描き直している

 さっ さっ 

と音をたてると 
窓辺から
午後の日が射すこの部屋に 
絵具の匂いが満ちてゆく 

何年も前に
遠い雪国へ嫁いだ
長女が描かれたキャンバスは 
次第に黄土色に覆われ 
長女の輪郭は消えてゆく 

( そんな風に 
( 自らが愛情をそそいだ長い日々さえも 
( 人はさりげなく過去に葬り 

日々を気ままに歩もうと 
スケッチブックを抱え
部屋を出た親父は 
今日の日の門を開いて 
海へと歩く 


( 結婚式の日 
( ウェディングドレ
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