暑い夏の記憶から─南京大虐殺物語について─/室町 礼
ずいぶん様々な仕事についてきました。
それを全部語るのは生きている間には不可能でしょう。
学歴のないわたしのことですから下層も下層、
だれもやりたがらない仕事ばかりでした。
あるとき、数ヶ月ほど
品川駅港南口にあった通称芝浦屠殺場で働いたことがあります。
日本最大の巨大な屠殺場です。
早朝、屠殺場のビルの二階の大会場で肉牛の競り市が開かれ、
縦に真っ二つに斬った牛を鈎フックにかけて
仲買人の前へ押し流す作業でした。半身になったとはいえ何トンもある
肉牛の腹には「良」「優良」といった検品済みである
証の赤いスタンプが捺されていました。
大学の学生席のようなところに座った威勢の
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