Lの昇天?/朧月夜
 
    ……小曲は終わった。
    木枯のような音が一しきり過ぎていった。
    そのあとはまたもとの静けさのなかで音楽が鳴り響いていった。
        ――梶井基次郎「器楽的幻覚」



*Lは雑踏の中にたたずんでいる


 Lは雑踏の中にたたずんでいた。季節は3月。Lは空を見上げていた。雪。無数の淡雪が舞い降りて、そのうちのいくつかが彼女の薄い化粧をした顔に触れ、体温で溶けていく。

 Sの街でもこの季節に雪が降ることは珍しい。それは、ほぼ一カ月ぶりの降雪だった。だからと言って、人々は慌てることもない。

 Lは何も考えてはいない。雑踏の中にたたずん
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