スズメバチ(SS私小説)/山人
いろいろあったようで、そうでもなかったような、そんな数年が続いていた。なんとはなしに、脳の中に霧が立ち込めているのではないかと思うくらい、心底何かを思考する気にはなれないのだ。
川村は山小屋を営んでいた。山小屋と言っても山岳に位置しているわけでもなく、小さいながらも旅館許可を得、営業したての頃は日帰りの手打ち蕎麦店も営み、宴会から学生合宿、登山客など、来るもの拒まずという営業スタイルであった。しかし、営業開始から三十年弱経った現在ではそれだけでは食えず、地元の林業関係の事業所に身を寄せつつ、家業も細々と続けていた。
朝九時から営業を始める近くの町のスーパーは五分前なのに入ることが許されて
[次のページ]
戻る 編 削 Point(1)