衣/もり
 
まだビニルの臭いがする五体の人形から初老女の指紋を検出するのにそう時間はかからないと男が笑う。
手袋の内側に付けられた粉はパン屋のそれとは大違いだ。
牛乳にクルミを砕いて入れながら、デリバリーヘルス嬢が言った、
「あんたハッカ油のつけ過ぎよ」白い液体がおれの眉にはねた。
来月にはドイツ行きの航空券を買える。それはおれの心を真夜中の公園のブランコのように安定させる。
街灯の下では、金色の蛾の鱗粉をチンドン屋が餅を拾う要領で集めていく。彼らが収入の大半を集会での菓子代に使っていることを知って、おれは仕事をやめた。顔見知りのひとりが車椅子に乗ったまま手招きする。やつの尻は褥瘡で手の施しようがな
[次のページ]
戻る   Point(1)