衣/もり
がない。
おれは嬢に軽口を叩いた。それは野良猫の飼い猫へのルサンチマンかもしれないし、ただビロードのように滑らかなシュプレヒコールだったかもしれない。横文字が好きね、ハイヒールの踵で和紙でできた敷き布団カバーに穴をあけながらまったく悪びれる様子がない。冬の空にたなびく煙草の煙。それが嬢の仕事のやり方であり、通奏低音だった。
「延長ドースル?」2分前にチャプスイをオーダーしておいて言う台詞ではないが、そこには目をつぶって缶ビールのプルタブを投げつける。すると嬢は麻薬中毒者にホテルへコールされ、彼が永遠に部屋の中をぐるぐると回る悪夢、つまりありきたりな話をはじめた。おれは次で帰ってくれ、と金をガラ
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