思い出の痛みは嘘になる/ホロウ・シカエルボク
 

 それはたしかあたしがまだ一五だか六のころで、だけどそれが記憶としてほんとにただしいのかなんてまるで自信なんかないんだけど、とにかくその頃。街の外れの、ファンタズムっていう名前のバーだったわ。半地下で、空気の流れがなくて、照明が薄暗くて…狭くて、ボックス席が四つと、カウンター席が四つしかないものだから、いつもだれかしらでいっぱいだったんだけど、おかしなことにその店にいる間はだれもがぼそぼそとしか喋らないの。まるで大きな声を出したらおかしなものがやってくるんじゃないかっていうふうに。そんで変な音楽が小さな音で流れてるの。そんな店。みんな袖の短いシャツを着ていたから、夏の終わりか、秋の初めのころだ
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