香之手紙/影山影司
兄に会ったのは、一年振りだ。
子供の頃は世間並みの兄弟として過ごしたが、今となっては用でも無ければ会うこともない。端的に言ってしまえば、そういった間柄なのだ。去年と同じく、盆に逝った親父の三回忌で俺は実家に帰った。
久々に見ると、兄貴は随分父に似て来ている。こめかみのあたりに生えた若白髪や、笑い皺……。長男という生き物は、歳を取るにつれて母親の名残を削ぎ落として、父に似るのだろうか。
父と同じで、睡眠不足の腫れぼったい目が、俺を睨む。
「実家は、大変か」
久方ぶりに会った身内ほど、会話に困る存在はいない。
「なに、夏バテやわ」
水色のまだら模様を浮かべた扇子を仰ぐ兄貴。
[次のページ]
戻る 編 削 Point(1)