香之手紙/影山影司
。
あの扇子は、父の遺品ではなかったか。道理で、父そっくりに見えるわけだ。
「明日朝にゃ帰るけど、飯くらい作ったるわな。どうせ碌なもん食っとらんやろが」
二十歳も越すと、男兄弟の会話はめっきり減る。家業を継いだ長男と、自由奔放に家を飛び出した次男なら尚更だ。母が亡くなったのをきっかけに、父の会社へと転職した兄貴も今や立派に社長様の仕事をこなしているらしい。
実家は、男の一人暮らしには不釣り合いな一軒家だ。かつては母が、俺達兄弟と父のために腕をふるった台所も、随分と長く使われていないらしい。コンロ周りは油シミ一つなく、ゴミ箱にはインスタント食品の包装が山を作っていた。
「たま
[次のページ]
戻る 編 削 Point(1)