どれもすべてたったひとつの生/ホロウ・シカエルボク
 
    


超自然的に増幅されたそれは重く、濡れた毛布の様に背中からのしかかり、脊髄の軋む音を体内中に響かせる。生物であれば当然、誰もが耳にするはずの音さ。安物のエアコンが説得力だけは十分な音を立てて生温い風を吐きだしている、部屋の明かりはもう消してあって、たぶん後は眠るのを待つばかりの今日だ。そこからがいつも長い。循環に損傷のあるエンジンの様に意識のどこかでノッキングが続いている。近所の家の飼い猫は一日中出してくれとゲージの中で鳴き続けている。どんなふうに鳴けばいいか知っているそいつの声はいつでも忌々しい。何度、こんな夜に目を閉じて眠る真似をしただろう、爪を一枚一枚剥ぐみたいに一分一秒が
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