猫の森であいましょう/済谷川蛍
 
 「T君は仕事の疲れを二倍にも三倍にもする」
 それが彼女の別れの言葉だった。明確な悲しさも寂しさも不安もなく、途方に暮れ、部屋にぽつんと取り残された自分の身体は他人のように野暮ったかった。クリスマスプレゼント用の封筒の中身の札を取り出して、やっと涙がこみ上げるような惨めな感情が湧き上がった。呆けた顔でときどき笑いながら頬を札束で叩き、バーに行くことを思いついた。シャワーを浴びて身を清めたあと化粧水をつけ、アルマーニ・コレツィオーニのジャケットを羽織り、スタンドミラーに映した自分の姿に見惚れた。封筒に貯めていた15枚の札から5枚抜いて財布に入れ、女友達のNに電話をかけた。
 バー「キャッツフォ
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