1/はるな
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取りだした煙草が凍るようにつめたく、ここはここなのだということを思い知らされる。火を点ける少しの間にさえ手は凍え、全身を震わせて空を見上げた。
明日三十になる。何とも言えず感慨深くはあるのだが、それがどういった感慨なのかと問われれば答えることができない。
「あなたには決定的なものが欠けている」
九州を出てくるときに、涼子はそう言った。怒りも悲哀も感じられないプラスチックのような声色で。
「決定的なもの?」
「そう。決定的なもの。」
涼子は少し笑って言った。足もとにブラウが大人しく座っていた。
ブラウは涼子と暮らし始めて
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