1/はるな
 
めてすぐ僕が拾ってきた犬だ。詳しくないので犬種が何かはわからないが、明るい毛色の、大人しい犬だ。
「それが何かは教えてくれないのかな」
 僕たちは電車をまっていた。夏の終わりだった。せみが鳴いていて、空はうす青く、ときたま空気をかき混ぜるような風が吹いた。涼子は横顔の美しい女で、うつむいたときの鼻梁のせつない傾きぐあいに、僕のみぞおちはざわざわとうねった。
「わたしにだってわからないもの」
 二人とも、少し汗をかいていた。たとえば、少年と少女のような涙や怒りや悲しみがここにあれば。僕は思った。女性の、あきらめをもった眼というのは、この世でもっともやるせないもののひとつだ。僕にたいする涼子のおもいのほとんどは、あきらめに支配されてしまった。でも仕方がなかった。それは僕自身の問題でありながら、涼子にしか解決できない問題でもあるのだ。僕は女性と付き合うといつでもそういう風になってしまう。 

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