誕生/豊島ケイトウ
メモを取る行為こそ自己採掘につながると妄信する彼女は、だから電話の最中や手持ちぶさたのときなどに思いついた言葉をすべてメモせずにはいられなかった。そして眠る前に、その日のメモ用紙を一通り眺め、自分の思考に対する意見を、また、別のメモ用紙にメモするのである。その習慣は学生のころから二十三年間、一日も怠ったことがない。
ある日の夜、彼女はいつものようにメモ用紙を並べて、今日いちにち自分がどのようなメモを取ったかチェックしていると、青天の霹靂にみまわれた。彼女は額を打ち、メモをまじまじと見つめる。すると、そこに書かれているちぐはぐな思考の羅列が、まるで数珠つなぎになっているように脳裏になだれ込んで
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