誕生/豊島ケイトウ
んでくるのである。そうしてさらに見つめていると、そのつながりは遺伝子の系列に似ているようにも思えてきた。彼女は一つのメモともう一つのメモをつなぎ合わせ、そこから連想される新たなメモを生み出した。
その作業は翌日も翌々日も行われた。会社から電話が鳴りっぱなしだったが意に介さなかった。彼女は泣きながらつぎつぎに生まれてくる言葉をメモ用紙に書きとめていった。言葉は、まさしく遺伝情報を伝える物質である、DNAそのものの役割を果たした。これは私の歴史をダビングしているのだわ、と彼女は思った。メモをすればするほど、自分のしている行為が崇高なものに思え、また、そこからなにかが誕生するのではないかと、つまり生
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