脱皮/榊 慧
彼は模試で学年4位を取ったらしかった。彼は誰にも話さなかった。定期テストでクラス1位の女子が興味ないという風に友達とはしゃぎながら横目で彼の用紙を見る。彼女は25位だった。
「先生、」
彼は芸術の授業で美術を選択している。たいてい皆この授業の時は騒がしく友人らと固まって過ごしているが、彼は初めに先生が出席番号順に決めた席から動かず、そのせいで一人離れて作業をしているように見えた。そして多少調子にのった人が多数いる中、彼の声は不思議にも誰の耳にも入った。
「それ、俺にもやらしてください」
それ、と彼が見ているほうを見る。それ、とは電動糸のこぎりのことで、それを
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