【140字小説】牛歩他/三州生桑
 
【牛歩】
講義が終はった夕暮れ時、皆で学食に向かふ途中で、不審な動きをする男を見た。彼は歩道の真ん中を、ほとんど足踏みするやうにゆるゆる歩いて行く。事情を知ってゐる友人によれば、彼は母親にかう言はれたらしい。「あなたは友達がゐないから、授業が終はっても友達を作るまで家に帰ってきちゃダメよ」


【黄色い猫】
風の無い昼下がりに、ぼんやりと田舎道を散歩してゐると、一匹の黄色い猫が私の傍らを追ひ越して行った。ツッツッと舌を鳴らしてみても振り向きもしない。無愛想な猫だなと思ってゐると、また傍らを黄色い猫が追ひ抜いて行く。兄弟かしらと思ふ間もなく、また黄色い猫が……。ああ、私は死んだのだな。

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