【140字小説】牛歩他/三州生桑
 



【アナゴ】
「しかしこれホンマにウナギかいな、ちっとばかし焦げすぎてるで。こんな黒うて硬うて細長ぁい……久しぶりのウナ丼やっちうのに、どんならんな。待てよ、これアナゴとちゃうかいな? 冗談やないで、おい親父!」「へい、何でっしゃろ」「これウナギやのうてアナ……ああっ、あんたはアナゴはん!?」


【大学ノート】
終電で向かひ側に座った若い男が、一心不乱に大学ノートに鉛筆で何やら書いてゐた。ちらとノートを見やると、一行に三列づつ極小の文字をビッシリ書き連ねてゐる。ノートの大半は真っ黒になってゐた。それは全て一人の女の名前だった。私は目を逸らす。窓に映った男が上目遣ひに私をにらんでゐたので。




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