PCを捨てよ 町へ出よう(1)/花形新次
 
 JR京浜東北線新子安駅前にある居酒屋『道草』の親父は、
僕がカウンターで一人、コップ酒をちびちびやっていると、決まってボクシングの話を
聞かせたがる。僕ら以降の世代では誰も知らないような昔のチャンピオンの話を。
 そのほとんどを僕はすっかり忘れてしまったけれど(酒が入っているから)、それでも
いくつかは記憶に残っている。
 たとえば、試合の当日になって行方をくらませた男(怖くなったのか?それとも借金取りから逃げるためなのか?)の代役としてリングに初めて立った黒人少年の話。しかも少年は、その行方をくらませた男の名前で闘ったという。才能溢れる少年は、その試合も、次の試合も、その次も圧倒的な
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