東京少年 「新宿」/虹村 凌
俺は急に眩暈の様なものを感じ、
「ちょっと便所」
と短く言って、席を立った。
足が別の生き物の様に、前に進む。ラバーソールの厚い底を通して、床板の軋む感覚が伝わってくる。平行感覚がよくわからない。俺は、真っ直ぐ歩けているのか。柱につかまり、体を預ける。二階にある便所への階段も、手すりに捕まりながらようやく昇りきった。
二階の便所のドアには、雪隠と書かれた板が下がっている。俺はドアをノックして、反応が無いのを確かめてから、流れ込むようにトイレの仲に駆け込んだ。個室になっているドアの鍵を閉めると、俺は便器の上に覆いかぶさるようにうずくまり、喉に指を突っ込んだ。真っ赤なものが飛び
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