檸檬/柊 恵
秋というには、まだ早い
風は乾いてきたけれど
地下鉄を降りる
ホームに残る夕刻の熱気
東急『Food show』
とくに欲しいものも無くて
檸檬を買った
「そのままで良いから」
手持ちの紙袋に檸檬を入れる
レジ袋って好きじゃない
人で溢れる渋谷
みどりの窓口、長い人の列の新幹線券売機に並ぶ
ふと窓口の方を見る
壁に寄りかかって黒髪の綺麗なひと
黒いスーツ粋に着こなして
メールをみつめる
はらり髪が蒼白の頬にかかる
くちびるが微かに震えて
「うゎぁ〜ん」
悲しみが堰を切る
なりふり構わず子供のように
「うゎぁ〜、うゎぁ〜ん」
崩れる
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