秋ざれ/三州生桑
大学からN駅まで歩いて行くことがあります、と話しのついでに言ふと、先生は興味を持たれた様子で、その日は一緒に歩いて帰ることになった。N駅と大学までの間には、地下鉄の駅が十ばかりある。距離はどれほどか分からないが、ゆるゆる歩いて二時間は優にかかるだらう。爽やかな秋の午後に、図らずも先生と長時間閑談することになったわけだ。二人とも若かった。先生は私より一回り上で、干支は同じである。
先生は結婚されたばかりであった。道すがら、自づとその辺りの話しになる。お祝に、私は無銘の茶碗を贈ったのだった。今から考へても恥づかしくなるやうな安物の楽茶碗だったが、毎日使ってゐると仰しゃってくださった。先生は表千家
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