フレグランスボム/影山影司
S氏は首をくくる縄を探していた。子供の頃はニュースで『不況』の二文字を見るたびに不思議な気持ちになったものだ。だが大人になると、それは言葉にするほど生やさしいものじゃないと知った。海原まっただ中のイカダを大波が襲うようなものだった。
このままあと一ヶ月あれば、払いきれない借金を抱えて会社が潰れるのは目に見えていた。毎日毎日ぐるぐると考える。もし自分の会社が、アイデアを買い上げ商品化する、などといったつかみ所のない商売でなければ、もし、大ヒット商品を一つでも作っていれば、いや、そもそも全てが無かったことになれば。
発明家L氏と応接室にて面会したのも、いわば気まぐれのようなものだった。発明家
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