【小説】僕らはいつだって本の虫なのサ/影山影司
片眼鏡越しに凝視する。熟練した指先はピンセットにて丁寧に一枚一枚を剥ぎ取り、その表面の光沢を満遍なく光灯の下に晒した。この虫はさほど珍しいものではない。あなたとて、見たことあるはずだ。古本屋でひょいと一冊小説を買って、電車に乗り込む。赤字経営の電車にガタガタ揺られながら頁をめくると、綴じ目に乾涸らびた虫が丸まって居るではないか。
そう、その虫。すなわち本の虫。
彼はコレクタの中でも、やや学者に近い位置に居る。
だから知っているのだが、本の虫は元来「帆の虫」と呼ばれていた。几帳面に折りたたまれ、ピンと立ったその薄皮がまるで青い海原に漂う帆のようであるから呼ばれたのだ。江戸時代
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