入院記/渡邉建志
 
上智大学の門をすこし越えたところで、堤沿いの歩道は紫陽花が覆いかぶさってきて、誰もそちら側を歩きません。そこから先は、みんな上智大学側の歩道を歩いています。そもそも上智側のほうが広いので。でも、私は右側を歩きます。紫陽花の下をしゃがみこんで歩きます。下から見ると、花弁が根元から先端にかけて―とくに中心からすこしの間に―青色から紫色にグラデーションをかけていくのがとても美しく見えます。空が晴れていれば、その色が透けて見えます。周りの葉の色も気持ちのよい薄緑で、葉脈も透けて見えます。絵が描ければなあ!とこんなときに思います。私は絵が下手です。たぶん母なら教えてくれるだろうな、と思いながら、母とのコミュ
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