虚偽と忘却のエピソード/atsuchan69
天空がようやく白みはじめた夜の終わりに、緩やかな砂丘を白いターバンを巻いた少年がただひとり美しい装飾の柩を背中にのせたアジア象をつれて歩いている。沢山の花たちで飾られた柩の正体はけして定かではないが、おそらく身分の高い人のものであることが柩を包んだ布地の飾りから見てとれる。あえて疑えば、象をひく少年の顔は、けして笑ってなどいなかった。それはおよそ子供らしさの感じられない、まるで生きることをやめたハックルベリ・フィンみたいな、暗い事実をうけとめた酷く大人びた灰色の顔だった。あるいは、その理由が柩のなかの人への特別な想いによるものなのか‥‥ということさえ、わたしには皆目わからない。すると海と砂浜に、
[次のページ]
[グループ]
戻る 編 削 Point(9)