あと幾日/はるこ
「兄さん、あとそこにある段ボールだけだよ、重いから気をつけて。」
「あ、ああ。」
あと数日で、18年間慣れ親しんだ我が家を出て行くというのに、
まだ俺は実感がわかない。
「東京はもう、桜が咲いてるね。 兄さんの好きなライブにも行き放題だね。 いいなぁ…。」
そう言って俺の横で洗濯物をたたむ佐希子は、庭先のまだ咲かない桜を見ている。
いつも丁寧にたたんでくれた緑色のセーターは、もう段ボール箱の中だ。
ぼんやり言う佐希子に、俺はなぜだか苛ついた。
「お前が行かないって言ったんじゃん。」
つい、意地悪な台詞が飛び出す。 よせ、やめとけ。 あと数日でいなくなるんだから。
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