刑事コロンボ、立原道造の詩「のちのおもひに」を追う/菊西 夕座
夢はいつもかえつて行つた 山の麓のさびしい村に
コロンボはホシを追っていった 山裾にレインコートの裾をかぶせ
水引草に風が立ち
かつての慶事から結び目はほどけ
草ひばりのうたひやまない
胸騒ぎを刑事も抱えて
しづまりかへつた午さがりの林道を
一直線に追跡の背中で切り拓く
うららかに青い空には陽がてり 火山は眠つてゐた
コロンボの心臓は脈を速め 拳銃はじっとしたまま
――そして私は
そして犯人は
見て来たものを 島々を 波を 岬を 日光月光を
押し殺したものを 愛憎を 毒を 狂気を 自己実現を
だれもきいてゐないと知りながら
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