陰翳/積 緋露雪00
陰翳
夕闇も深まる時、
森羅万象は一斉に陰翳に色めき立つ。
ざわざわとひそひそ話を始めるものたちは、
吾が存在により生じる陰翳に、
己の己に対するずれを確認しながら、
自分の居場所から離れてゆく。
何て心地よい時か。
俺が俺から離れる時に生じる俺の陰翳に
俺は快哉を送るのだ。
何故って、
俺が俺からずれると言ふ得も言はれぬ感覚は
全て陰翳として可視化され、
また、その陰翳には俺の異形が犇めき合ふのだ。
昼間は影を潜めてゐた異形のものたちは、
世界に陰翳が生じる此の夕闇深き時に、
その重たい頭を擡げ、
森羅万象に生じる陰翳に水を得た魚のやうに
自在に動
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