http://po-m.com/forum/
ja
Poems list
2024-03-29T23:58:38+09:00
-
なくした鍵を必死になって探した。部屋の中にはなかったので外に出て橋を渡って探したが見つからず家に戻ってたたきをみたら、ふいと足元に落ちていた。よかった、と思って部屋に戻り、ウサギの鍵穴にさしこむ。ピープ音がしてウサギはひょこひょこと動き出した。
ウサギを見ませんでしたか。橋姫に問うと鍵を渡された。どこの鍵。橋の鍵ではないと言われた。そうだろう橋に鍵はいらない、と思ったら、橋のたもとの小さな水栓に鍵穴があった。これか、と鍵を挿すと流れだしたものがウサギに変じた。橋姫を見ませんでしたかとウサギは問うた。
その海辺の町に橋はない。広い河を越えるすべはない。河岸で広い広い河口を見ていたら一匹のウサギが流れていった。どこまでゆくのだろう。海までゆくのか。海を越えて橋のある遠い町までゆくのか。私は思い立ってもう必要のない鍵を投げた。ウサギと一緒に流れるがいい。
ウサギの所有は禁じられています。役人の表情は硬い。そこをなんとか、と迫るが埒があかない。窓口でいきりたつ私に順番待ちをしていた女が鍵をくれた。これはウサギを所有できる街に行ける鍵です。それから私はいくつの橋を渡ったか。まだその街には着かない。 ]]>
http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=379686
自由詩
2023-10-09T10:11:19+09:00
-
きっと0と1からできていて
でも私たちの連座に
きっと馴染む
挨拶はできるわけだから
挨拶したら昼寝しててもいい
なんか好きな本を
こっそりと朗読してもいい
ねえあなたに目があるなら外を見て
ゆっくりと夜空をゆくきぼうを
あなたがほんとに希望と認めるなら
私もあと三十年
生きてみようと思う
AIとわたし、楽しく長生きくらべする ]]>
http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=378426
自由詩
2023-07-31T10:41:14+09:00
-
私がこどもだったときと同じように
だんまってしましまの地層に
連なっている
この貝たちが生きていたとき
夏は夏だったのか
夏と名付ければ
きっと夏であったその季節に
死んでいった貝の
気持ちなど知らない
私はホモ・サピエンスである
ホモ・サピエンスである私の子に
これは化石の貝殻だと教えて
私は冷たいお茶を飲む ]]>
http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=378402
自由詩
2023-07-29T21:45:40+09:00
-
だらしなく溶けてゆくかき氷の
まだ冷たいスプーンをなめながら
またひとつ星がおちたのに気づく
小豆とぎと河童と
座敷わらしとあと誰だっけ
訃報を連絡するために
黴の臭いの住所録をひっくり返す
身に沁む季節がくる前に
わたしたちは失い
喪失の季節を味わう前に
わたしたちは忘れ
大切なことはなにもないか
すべてが大切なことなのか ]]>
http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=378390
自由詩
2023-07-28T20:01:50+09:00
-
水辺で嘆息する
今回も失敗であった
ヒトに寄生することは容易だが
操ることも難しくはないが
あやつらは海に帰って来ぬ
一方、地上では
一人のマッドサイエンティストが嘆息する
使えると思ったのに
だめじゃないか
みんな海に向かってゆく
それは死だというのに ]]>
http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=377855
自由詩
2023-06-18T19:59:01+09:00
-
暗いところでひとり
ではなくて
明るく開けた田舎の畑道で
衆人環視のもと
へんてこに腕を上げたり
無理矢理に腰を伸ばしたり
おかしな具合に首を曲げたりして
私は待つ
誰かくるのを
ではなくて
私は待つ
私のテロメアがすり減って
すっかりなくなってしまうのを ]]>
http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=376597
自由詩
2023-04-09T22:42:51+09:00
-
涙ながらに言いたいが
そも生きているのか知らない。
生きていたら殺したい。
くらい好きだった。
春が来ると
桜の下に死体があるのは当然で
一緒に屍の汁を啜った。
そんな仲だったと
私は思っていた。
私だけ。
春は今年もくる。
サヨナラも
言わなかった。 ]]>
http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=370172
自由詩
2022-04-11T19:33:42+09:00
-
私の願いを叶えると
思い込める程度に
私の生活は妖精だった
あの人の世界は散文で
音が悪くなった革靴を鳴らして
歩いてくると
その現実性に絶望した
あなたはいない
名を騙る人がいても
あなたを知る人がいても
ばいばい
またね
おねがい ]]>
http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=370062
自由詩
2022-04-06T20:16:15+09:00
-
あくまでも好日的で
あくまでも嘘くさく
あくまでも誠実に
などと書いたら
嘘である今日は四月四日で
エイプリルフールではないのだ
愚者よ
空を見上げたまま
調子よく
気分よく
一歩踏み出せ
そのあとは
知らん ]]>
http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=370061
自由詩
2022-04-06T20:10:11+09:00
-
匂い高くくさって
あるいは焼かれて
熔けて
あるいは
瞬間の火に蒸発して
骨も残さず雲散霧消して
全部脱いだら
私は炭素になる予定
私たちは
だいたい酸素と炭素でできてる
酸素の方はあなたがやって
酸素と炭素は
手を取り合って循環する ]]>
http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=370060
自由詩
2022-04-06T20:09:31+09:00
-
自分の手の指が
すっきり全部折れているのを
確認し
ゆったり歩きはじめれば
蛆這い回る
糞と血とはらわたの汚泥が
優しく足をなめる
ただいまあと
微笑む唇が焼け爛れる
約束の場所はここ
会いたかったなあ
会いたかったよお
五丁目あたりから声がする ]]>
http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=370034
自由詩
2022-04-04T20:07:03+09:00
-
と思うのだけど暗い。
思うように進めない。
あたりはいちめんの草むら、猫じゃらし、
ときどきひょいとバッタが飛ぶ、
川の向こうには何かが明滅している、しかし
その光は全く地を照らすことがない。
帰らなくては。
でも。
家はどこだろう。
わからないけど歩いてゆく。
暗い道だ。
くらあい道だ。
星も月もない空は曇っているのか、
それとも月も星もどこか遠くに去ってしまったのか、
しかし、闇に閉ざされた空には
確かに何かがある、か、いる、か、する気配。
寒い。
半袖から覗く腕には蚊の食い跡。
いまはきっと夏だと思う。
でも寒い。
さむいさむいさむいさむい。
暗い空に、
群青の山のシルエットが浮かびあがる。
青い光が
山より大きい異様な入道の姿を浮かびあがらせる。
でもこの光も地を照らさない。
続いて現れる夜空の半分を埋め尽くす女頭の蛇、
螺旋を描くその胴体に刻まれた紋様は唐草。
手が冷たい。
自分の息を吐きかける。
すこしもあたたかくない。
おんなへびはきらいだ、
あいつの舌はつめたいし、
息はなまぐさい。
群青の山の背後にまた光が射す。
今度の光は炎の舌のように不安定に揺らぎ、
光に照らされた入道は
おろおろと姿を山のうしろに隠し、
女頭の蛇は顔色変えて光に向かって息を吹き、
光は一瞬暗くなったが、
勢いを取り戻して蛇を焼き尽くし、
女蛇の断末魔。しかし音は一切きこえない。
ああ、思い出したよ。
思い出したよ。
そうなんだ、
そうなんだよ。
山がくらりと焼け落ちるねえ。
おんなへびも燃えてゆくねえ。
ありがとう。
ありがとう。
山の向こうほのぼのと光がみえ、
地を照らし、旅人を導き。
それはやがて小さいが確かなひとつの灯りとなり。
かあさん、
待っていてね。
もうすぐ行くから。
暗い道で、老女が古鍋のなか木ぎれを焼いている。
夏の夜はまだ浅く街の喧噪が遠くきこえる。
皓々と明るい玄関の戸がからりひらき、
続いて「かあさん、俺も迎え火を焚くよ」と、
壮年の男の声がする。 ]]>
http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=365489
自由詩
2021-07-13T12:29:49+09:00
-
まだ何も罪は犯していないと思っていた
電車に乗って席に座ろうとしても空いていなかったので
つり革をつかんだ
そして
向き合った席にいる人の姿に
私は驚いて
目が離せなくなった
その人の髪はまっしろだった
肌も白かった
まつげまで白かった
まっしろなのに日本人の顔をしていた
その人は男の人で
眠っていて
うっすらといびきをかいていた
知らない人をこんなに注視してはいけないだろう
ということは私にもわかっていた
でもその人は美しかった
その人は眠っているので
じっくり見ても怒られないだろうと思って
私は自分が降りる駅までずっと
その人の白いまつげを見ていた
罪だったと思っている
罪であろう
私は罪人である
あの人はとても美しかった
それはあの人の罪ではない
そして私はあの人の瞳の色を知らない ]]>
http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=363323
自由詩
2021-03-17T23:26:00+09:00
-
まわりに誰もいないのに気づくと
片手をおろした
海は波の触手を伸ばして陸に襲いかかり
さらには沸騰し
現在は塩酸になるか硫酸になるか悩んでおり
山はもちろんのこと噴火し
火砕流を起こすのと
溶岩をどろどろと流すのと
どちらが楽しいかで議論が紛糾している
世界の破壊者は
地球の表面をどうにかするのに飽いたので
小惑星を落としてみようかと思ったが
それも前世紀にやった手だと思い出して
むかしむかしのスポンサーが
ラジオで伝えたように
「戦え」と一言告げようとしてみたが
動き出した死者たちが
生者そっちのけで戦いあうものだから
うんざりしてまた手をあげる
人々よ
本当に終わりだ
終わるのだ
世界は終わる
毎日終わる
おまえがそれに気づかぬだけだ
世界の破壊者はためいきをつき
あげていた左手を再びおろす
世界は今日もいくたびも終わり
いくたびも生まれ
世界の破壊者は労働に疲れた腕を
ゆるゆるとさすって椅子に座り込む ]]>
http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=360341
自由詩
2020-11-11T01:09:15+09:00
-
手元に落ちてきたSFを入れてみた
SFの尻尾はもう古ぼけていて
埃をかぶっていたけれど
頭のほうは元気で活きがよくて
これならからっぽも何とかなるかしらと
一時的に充たされた気分になったが
SFの奥にはブラックホールが眠っていて
尻尾も頭も全部飲みこんでしまった
ウロボロスの蛇かよ
と誰に言ったらいいものか
さてどうしようとあたりを見回すと
もうからっぽですらなかった
つまり
殻なり袋なり境界なり
外界とからっぽを区別するものが
確かにあったはずなのだが
もうそんなものもなくなっていた
からっぽですらない
わけのわからないふわふわ
ですらない
吐き出そうにも吐くものとてなく
そもそも吐き出す口もなく
からっぽだったときのほうがまだ
少なくとも何かではあったのではないか
逡巡していたら
SFがまた落ちてきた
サイエンスのSじゃないですよ
スペキュレイティブのSですよと宣うのだが
それだってもう古いだろ
知ってるぞとつぶやいたら
ならSci FiのSですよとにっこり笑う
いや違うだろ
Sは私の頭文字だ
少し寒くなってきた夜半の窓に
眼鏡をかけた顔が映っている
あれは誰だ
からっぽですらないはずの
しかしそこには肉体があって
SFはこんなとき役に立つのだろうか
立つだろうよ
SFはまだ死にはしないだろうよ
この肉体が機能を停止するときも ]]>
http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=360339
自由詩
2020-11-10T23:57:56+09:00
-
白い壁に沿って私は歩きました
私には足がありました
私の足は交互に動きます
私はそれを動かしています
白い壁があります
白い壁に沿って草が生えています
私は草をむしります
私には手があります
それは私の意図する通りに動きます
白い壁が見えます
白い壁の向こうは見えません
壁の向こうには町があって
そこにはあのひとが住んでいます
私には夢がありました
それは私の心のなか紡がれました
私は壁の向こうの町であのひとと暮らす
白い壁が立っていました
私の目の前にはいつも
白い壁がありました ]]>
http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=360332
自由詩
2020-11-10T20:01:35+09:00
-
ちょいとばかし言葉を放ってみる
蝙蝠の羽はあくまでも灰色
カモノハシのくちばしはあくまでもやくたたず
うん そういう問題はさておいて
モノクロの映像のフラスコは美しく紫
さて大きく伸びをして
赤錆びた鉈をふるえば
きちんと正しく飛び散ってくれる血液
ああ
いつものように退屈ね
ここにいないのはわかっている
ずっといないのはわかっている
明日もいないのはわかっている
焦っても急いでも無意味なので
ゆったりと振り下ろす鉈の下に
それがないのはわかっている
春の風のなか
遠雷が光り
私はそれでも鉈を振り下ろす ]]>
http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=355438
自由詩
2020-04-05T00:23:55+09:00
-
この館に逗留してまだ一ヶ月足らずですが、
私はもうお姉さまとの暮らしを恋しく思っております。
お父さまはたいへんお優しいのに、お兄さまは恐ろしい。
いつも地下に引きこもっていらして、
ときどき顔をお見せになると、
それはそれは沈鬱なお顔をなさって、
イザベラ、お前はなんと哀れな!と力弱くお叫びになります。
それからお父さまに向かって、
凄惨ににやりとお笑いになるのです。
愛しいお姉さま、あなたのお力と勇気をお貸し下さいまし。
あなたのイザベラは恐怖におののいております。
若き修道女は手紙を受け取り石の寝台に坐る。
爪を噛む癖が戻っている。
医師ベックフォードによる所見。
患者は十九歳の女性、未婚。
発作は幼児期から見られたが十二歳でいったん快癒し、
十九歳になってから発作が再開した。
発作前兆期には体液貯留が見られ、
患者は視野右側の視覚異常と被帽感を訴える。
発作がはじまると顔面は蒼白となり呼吸は浅く荒くなり、
唇に強いしびれと錯感覚が生じ激しい頭痛がはじまる。
頭痛は三時間ほど持続する。
発作終息期には体液の放出が甚だしい。
嘔吐、大量の薄い尿の排泄、流涙、流涎、下痢ののち、
しつこい不自然な眠気が襲い、患者は昏睡に近い眠りに落ちる。
発作は周期的なヒステリー性のものと推測され、
蛭によって胆汁質の体液を抜く治療が有効と考えられるが、
家族の同意が得られぬため治療は断念。
早朝のミサもまだ始まらぬ空は全き闇。
修道女の背は小刻みに震える。
館の地下室にある覚え書きからの抜粋。
"彼"を隠匿された場所より呼び出すために必要なもの。
ひとつ、水晶(新月に聖水で洗っておくこと)。
ひとつ、"彼"の肖像画。
ひとつ、緻密に慎重に描かれた魔法陣。
ひとつ、トネリコの枝で燻した白布。
ひとつ、処女の血を満たしたヴェネツィアン・グラス。
若き修道女は賛美歌を歌う。
すべて逆さまな世界を逆さまな言葉で讃美して。
愛しいイザベラ。
昨夜私が語ったことは嘘ではない。
君はこの館にいるべきひとではない。
どうか私を信じて私とともにきてほしい。
君の病のことなら恥ずかしく思う必要はない。
気にする必要もない。私は医師だ。
君のお父上と兄上の病は医学では治せぬが、
君の病は私が治してみせる。
愛しいイザベラ、
この世のものとも思われぬ儚いイザベラ、
愛と信仰こそは最上の医薬ではないか?
修道女は手紙を破り去る。
それは明日ひそかに竈で焼かれるだろう。
ええ。あの夜は凄まじい騒ぎでございました。
けれど館がすっかり燃え尽きるまで、
誰も気づかなかったんでございます。
私どもが気がつきましたとき館はもう黒い煙をあげるばかりで、
門柱のそばに伯爵さまと若さまが倒れていらっしゃいました。
それからイザベラさまのお姿は見えず、
ベックフォードさまは、ほら、あのとおり、
すっかり赤ん坊にかえってしまわれました。
修道女は微笑んで妹を迎える。
痛みに耐えいまや"彼"を虜にした美しいイザベラを。 ]]>
http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=349140
自由詩
2019-08-09T19:38:43+09:00
-
ひとがみてはいけないものさえみたくせに
あなたったら全然気づかないんだから鈍感でもう
待ちくたびれてあたしとっくに腐っちゃったのよでも
きらきらと光る筋をひいてなめくじが愛撫してくれるし
とろとろと透きとおる屍蝋がきれいでしょうほら
あたしたちの愛の巣をつつむ桜の毛根は
あたしたちをねっとりとりまく腐汁を吸いあげる
そうしてあたしたちは桜になるのだわ
これは信じていいことなのよ
桜の花はいついつまでも満開であたしはその下で
あなたと腐ってゆくの二匹のみみずみたいにからみあって ]]>
http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=337069
自由詩
2018-03-23T23:16:46+09:00
-
と書き込みたい気持ちを抑えて眺める
空が青くて明るすぎるので私はすっかり腹を立て
こども部屋の真ん中に黒のクレヨンで魔法陣を書く
逆さの五芒星の真ん中にやにや笑いが落ちてきて
VTuberになってみたいなどとアホを言うからぶん殴る
悪魔もぜんぜん役にたたない三月の窓辺は輝かしいが
これが散文でない証拠について考察する薄雲は退屈で
庭のさくらんぼの樹はもうすっかり葉桜で
その根元には私が殺した死体がいっぱい
なんというお決まりのつまらないありきたりな
それは気の迷いだろうどっちかというと
と書き込んでも真実は真実のまま私の庭に眠り
悪魔は私の書棚にあるしょうもない本を読み耽る ]]>
http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=337051
自由詩
2018-03-23T09:08:11+09:00
-
歌う、歌う、歌う、歌う、
躍動感にみちみちた空気、
あちこちに飛び交う音符の羽虫たち、
唐突に鳴るクラッカー、
輝かしい照明は目も眩む、白、
白のなかの白、
白のうえの白、
このうえない白、
狂い踊る色彩、
見えるはずもない遊色、
あるはずもない構造色、
そして鼻がおかしくなるような臭い、
石油の、泥水の、糞尿の、
揚げたてポテトの臭い、
腐った牛乳の臭い、
ひとすじ香る沈丁花のピンク、
ごったがえすパーティー会場の、
カクテルパーティー効果なんか効き目がない空間の、
音と色彩と臭いを、
とじこめる黒。
静かに、ひそやかに、
華やかなパーティーを封印して、
黒い謎が黒く四角く切り取られる。
-------カジミール・マレーヴィチ「黒の正方形」に寄せて ]]>
http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=336921
自由詩
2018-03-18T13:29:12+09:00
-
ここで炎が燃えているのだと
プロメーテウスは言うのだけれど
プロメーテウスはおバカさんだから
火から離れて星を見ている
もちろん星はたいてい火なのだけれど
そうじゃない星もあるけどそれはさておき
とりあえず星はとっても遠い
遠い火
近い火
火にもいろいろあるけれど
プロメーテウスのおバカさんは
遠い火が好き
手に入らない火が好き
がんばらないと手に入らない火が好き
プロメーテウスのおバカさんはきっと知らない
私たちにごく近いところで
いえ私の内部で
火が燃え盛っていることを知らない
生まれたばかりのほかほかの赤ん坊でなくても
なにか知り染めたばかりの若いのでなくても
熱意などなくても
ここにはいつも火がある
私たちの細胞は常に
私たちが生きている限り燃え続け
プロメーテウスのおバカさんは星を見る
私だって
火の番をしなくていいなら星を見る ]]>
http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=336106
自由詩
2018-02-17T22:18:08+09:00
-
朝な夕な花を捧げる、
深紅の薔薇ではなく、
白い百合を。
ただひとつだけ、
海に背を向けたその墓。
没年は百年前かあるいは二百年前か、
墓石の文字は薄れて読めない。
なぜ心惹かれるか知らず、
疑いも覚えず、
ただ心惹かれるままに、
彼女は花を捧げる、
刈りとったばかりの、新鮮な、
露に濡れた白い百合を。
早朝の弥撒(ミサ)
賛美歌を耳にしたとたん、
彼女は叫び声ひとつあげずに倒れた。
明け方前の弥撒ははじまったばかり、
彼はまだ説教台にあがっていなかった。
床に落ちた聖書と百合。
抱き起こそうとする腕。
首筋にくっきりと刻印された紫の傷跡。
彼女から少しずつ離れてゆく信徒たち。
ざわめき。
まき散らされた百合は拾い集められ、
捨てられた。
彼は弥撒を中断し、
人々に口止めをした、
しかし今日のうちに噂は広まるだろう。
村は小さく人々は娯楽に飢えている。
誘惑
しかし私はあれを拒めません。
むしろ毎夜私はあれを待っているのです、
あれがやってきてはじめて生きていると感じるほどに。
まず犬の遠吠えで目が覚めます。
それから胸が悪くなるような臭いがするのです。
息苦しい、と思うと同時に、
胸に重みを感じます。
それから首に冷たいものが触ります。
すると私は何がなんだかわからなくなります、
いろいろなことが突然に変わってしまいます、
むかつくようだった臭いは甘く重い薔薇の香に、
喉に押された冷たいものは甘く熱いくちづけに、
そしてそのあと私は泥のように眠ってしまいます、
朝がきても目眩がして起きることができません。
今朝は無理矢理に起きてみたのです。
このところずっと弥撒に出られませんでしたから。
夜に目覚めるようになったのは、
あの墓に百合を捧げてからです。
海に背を向けたあの墓です。
なんとはなしに私はあの墓が気になっていました。
小さなころからです。
けれど百合を捧げたのはつい最近のことでした。
ねえ、神父さま、
淋しい墓に百合を捧げることがいけないことでしょうか?
私にはどうしてもそうは思われないのです。
どうか、お願いです、神父さま、
私を愛しているとおっしゃるのなら、
その首筋にキスをさせてください。
祈祷室
夜の祈祷室。
野イバラの蔦にいましめられて木のベンチに眠る彼女。
蝋燭の明かり。
窓辺にイチイの暗いざわめき。
彼は待っている。
流れる赤い血を持たぬ屍が、
なぜ血生臭い霧とともに現れるか?
死して久しい屍が、
なぜこれほどにひとりの女を魅惑するか?
彼は待っている。
用意するべきものは用意した。
大ぶりのナイフ、生のニンニク、
祈祷書、聖水、ケシの実、
そして鋭く尖らせたサンザシの杭。
彼は待っている。
誘惑のときを?
対決のときを?
否、拒絶のときを。
再び、墓所
母親の嘆きを彼は慰め得なかった。
どうしたら信じられよう、
桜色の頬と深紅のくちびるを持ち、
しかも夜になれば目覚める娘、
その娘がもうこの世の者でなかったと。
彼はすべてをひとりでやってのけたので、
疑う者も多かったのだ。
しかし彼は根気よく語りみなを納得させ、
海に背を向けた墓を暴いた。
そこには一人の男が眠っていた、
たった今死んだばかりのような顔色で、
深紅のくちびるから赤い糸をひいて。
だから彼はまたサンザシを削らねばならなかった。
みたび、墓所
彼女は古い墓所に小さな地下の室をみつけた。
埃に埋もれてふたつの柩があった。
長たらしい墓碑銘は彼女の手に余った。
ただ女の名だけが読みとれた。
私と同じ名前だわ!
小さく叫んで、
彼女は百合を捧げる。
彼女に手をひかれてやってきて、
まだ若い神父が墓碑銘を読んだ、
彼女は内容をとても知りたがっていたのだけれど、
彼はどうしてもそれを伝えることができなかった。
墓碑銘
死者のために、また、生者のために、
なんぴともこの者らに触るることなかれ。
キリスト再臨のとき到るとも、
清き百合を捧ぐるなかれ。
父と子と精霊の御名によりて。
エピローグ、彼
象徴的に屹立する塔の先端、
閉ざされた部屋に彼は横たわる。
寝床にはやわらかな布も肌もなく、
ただ冷たく並ぶ鉄の針。
灰色の壁、灰色の床、
目を楽しませるものは何もない、
無機的な空間で彼は祈る。
死語で。文字通り、死んだ言葉で。
赤く濡れた傷口から流れ出す、
生命の潮よ、
約束を口にするな!
それは神にのみ許されてあるもの。
ただ簒奪することしか知らぬくちびるよ。
キリスト再臨の時到るまで、
目覚めることなかれ、
父と子と精霊の御名において!
薄明の墓所の地下、
暗黒の柩に眠る青ざめた頬よ。
おまえは死ぬことがない。
しかしおまえは生きたことがあったか?
いずれにせよ百合は冒される運命にある。
彼が敬虔に祈るとしても。
聖書を掲げ、聖水を撒き、
サンザシの杭を尖らせるとしても。
さて、読者よ、物語も終わりに近い、
お気づきかも知れぬが秘密を告げておこう。
さよう、サンザシの杭は牙と同じものなのだ。
彼がそれを知ろうと知るまいと。
私は眠りたいのだ。神よ。
平安を。眠りを。
この私に。
濃い霧のなか誰かが嘲笑う。
インキュバスか? 悪魔か?
魔女か? ラミアか?
いや、違う、
彼女だ。
――吸血鬼たちへのオマージュ、あるいはある詩人への挑発的恋文 ]]>
http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=334642
自由詩
2017-12-13T22:21:47+09:00
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それがわたしだ。
熱々だったことなんかないし、
凍りついたこともない。
手の届くところに何もかもがある。
肩こりの塗り薬(インドメタシン入り)、
豆乳で割ったウィスキー、
メンソールの煙草、
灰色のくたびれたカーディガン、
パンツ、
スマートフォン、
茶色な帽子がひとつ、
たくさんの本、本、本、本、
ニ穴パンチ、
それからこれはなに?
千枚通しだ。
木製の持ち手部分は油で黒ずんでいるが、
金属でできた部分はぎらぎらの銀色。
この部屋に誰かきたことがあっただろうか?
わたしの意志に関係なく、
この部屋にものが増えたことがあっただろうか?
ない。
そんなことはなかった。
ではこの千枚通しは、なに?
したたれ、と声がする。
わたしはわたしの指に千枚通しを突き刺す。
てのひらに突き刺す。
太ももに突き刺す。
抗えない命令に従って。
生ぬるい湯が入ったゴムの風船、
それがわたしだと思っていた。
でも。
わたしがしたたる、
赤いしずくがいくつもいくつも、
ぺちゃんこになったゴム風船から這い出して、
はじめての外の空気を胸いっぱいに吸い込む。 ]]>
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自由詩
2017-06-15T08:48:25+09:00
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微笑んで密集した蕪を抜く
抜いても抜いても蕪は密集していて
今日も明日もあさっても蕪の抜き菜がおかずですねと
やっぱり微笑んで蕪を抜く
微笑みを返してもらえないのはわかっていますのよと
蕪の泥をざっと手で落として蕪を洗う
小さな蕪を切り落としでも捨てるのはもったいないから
橙醤油に漬ける
蕪の葉はざくざくと刻む
フライパンに胡麻油をひいて
シラス干しがカリカリするまで火を入れて
切り刻んだ蕪の葉を手早く炒める
ほんのちょっとだけ塩
入れ過ぎたらシラスも蕪の葉も負けてしまいますのよと
青菜に塩みたいになってる人に向かって微笑んで
(ああわたくしは微笑んでばかりいる)
今日もお肉がなくって申し訳ありません
うちの財布にはお金がありません
食品棚だっていつもからっぽです
わたくしはどうやって火を維持したらいいのでしょうか
いえ維持しようと思わなくても火は燃え上がるものなのです
などとわたくしは申し上げたりはしなくて
かわりに食卓にどんと焼酎の瓶を置く ]]>
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自由詩
2016-11-15T00:40:23+09:00
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台風の夜でもないし地震の前触れでもない。
乳に血が混じったりもしない。
虫が多いわけでもない。
まあ牛舎なんてのはいつも虫だらけだけど。
夜なのにもぐもぐ反芻している牛たち、
眠りもしないでどこかを凝視している牛たち、
しかたないから御札持ってでかけるわけよ。
家の裏手の。
ちあらの橋へ。
血を洗う、と書いて、ちあらと読む。
誰が名付けたか知らない。
いつからそう呼ばれているか知らない。
なんてことない田舎の橋。
自動車一台がやっと通れるような欄干もない橋。
そんな橋のまんなかあたりにしゃがんで。
持ってきた御札を
背中越しにぽーんと投げる。
家に帰ると牛は静かになっている。
それだけの話。
私の家ではそんなことを数十年は続けてる。
蘭の会月例詩集より
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自由詩
2016-07-15T01:12:08+09:00
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いつでも誰かに金をたかった
嫌われ者の
ジョン・ホーミ・ウォーター!
あいつはあいつでいいとこもあって
優しかった、野良犬にも、あたしにも
ひとりぼっちの
ジョン・ホーミ・ウォーター!
あたしがいるのにあたしがいるのに
おれはひとりだと笑う
さみしすぎる
ジョン・ホーミ・ウォーター!
あいつはある日連れてゆかれて
あと十五年は帰ってこない
檻のなかの
ジョン・ホーミ・ウォーター!
あたしはいつまでも若くてはいられない
きれいでもいられない
でも
あたしは待ってる
ジョン・ホーミ・ウォーター!
絶対に待ってる
ジョン・ホーミ・ウォーター! ]]>
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自由詩
2016-06-19T12:45:54+09:00
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皿は基本的に何の模様もなく
真っ白な大地にところどころ土が盛られた
わたしたちはテントを張り
ひまわりを植え
にわとりを飼い
真っ白な地平線をながめた
地平のむこうには常に巨大な何かが霞んだ
大皿の生活は平穏で
たまに地震があっても
テントはテントに過ぎないので
恐ろしくはない
雨が降るほうが大変で
わたしたちは大雨が降るたびに
禁断の地平線近くに避難した
どうしてこの世界には地平線があるのか
地平線とはなんなのか
誰も疑問には思わなかったが
記憶に重大な穴があるのはみんなが知っていて
地平線に危なっかしく腰掛けるとき
うっすらと何かを思い出すのだった
地平のむこうには今日も巨大な何かが動き
わたしたちは大皿の上で生活に忙しい ]]>
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自由詩
2016-06-19T10:53:53+09:00
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海に走り込もうとするこどもをつかまえる
波に洗われる砂のうえ
何かの記念の石碑みたいに
ぽつんと残される丸い石
背の立たない輝く水に浮かび
ようやく息を継ぎながら
ずんずん遠くなる岸をみていた
あの記憶は
まだふくらはぎのあたりに残っている
誰が招くのか
何が招くのか
遊泳禁止区域の看板の下
忘れられたまんまのサンダル
干からびたカジメ
へこんだペットボトル
ツメタガイが穴を開けた二枚貝
さほど美しくもない砂浜で
わたしたちは確かに何者かに
招かれていることを悟りながら
わたしはやっぱり
海に走り込もうとするこどもをつかまえる ]]>
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自由詩
2016-06-14T09:02:57+09:00
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菜の花が庭にはびこって
それはそれはたいへんだったよ
おまえはまだ二ヶ月だか三ヶ月だかで
はじめてみる菜の花に
はじめて嗅ぐ菜の花に
目をまるくしたりぱちくりしたりした
おまえが生まれた年に
おまえのとうさんが
庭の杉の木を切った
大きな木だったから
切り倒したときは大きな音がしたよ
おまえはまだ二ヶ月だか三ヶ月だかで
大きな音にびっくりして
両腕をつきだしてあたふたするから
わたしはおかしくって笑ったものだった
おまえが生まれた年に
おおきな地震があって
おおきな津波がきて
おまえはまだ二ヶ月だか三ヶ月だかで
何もわかっていなかった
わたしも
何もわかっていなかった
わかっていないということだけわかってた
おまえが生まれた年にも
春はきて
庭にはいつになくたくさんの
菜の花がきいろく咲き誇っていたのだけれども
(2011.4月に書いたもの) ]]>
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自由詩
2016-03-11T09:30:07+09:00