雑談スレッド4[178]
04/09 21:41
石畑由紀子

#自サイトで執筆している日々思考『デッサン』2004/02/02より転記。 ちと内容古いですが。


自宅近くにあるポストまで歩く途中、帰宅する自衛隊員とすれ違う。駐屯地正門から徒歩5分の場所に住んでいればこんなことは日常茶飯事だ。彼らは移動中、常に両手を空けていなければならない。なのでカバンは持たずにリュックサックを背負っている。そしてどんな天候の時でも傘をさしてはならない、さすことで片手がふさがってしまうからだ。雨の中も雪の中も帽子だけで黙々と歩いてゆく。

地元のボーリング場では、自衛隊員は通常料金から二割引きで利用することができる。ゴルフ練習場でも一割引き。大雪が降ったりしても、駐屯地近くの主要道路は街のどこよりも早く除雪される(そのおかげで私の自宅前の道は雪で埋まることがまずない)。氷まつりになると自衛隊が率先して会場作りや整備、雪像作りや解体をサポートする。まつり当日の警備も任務である。駐屯地があることで街の人口は増え、支出も増える。地方都市と自衛隊は共存していると言っていい。

私よりも年若い自衛隊員と屋台で相席したことがあった。酔いに比例して口数も増える。自衛というのだから当たり前と言えば当たり前だが、彼らは未整備地帯でも自力で飲み水を作る知識と技術を持っている。ナイフと歯でカエルやヘビの皮を剥ぎ、食べる。蟻も食べる。荒地で生き延びるための訓練を重ねる。

訓練中の隊員死亡事故は少なくない。当たり前のことだが使用する武器はオモチャではなく本物なのだ。親族や関係者から話が漏れて、時々私の耳にも入ってくる。それらはマスコミによって明るみになることもなく、防衛長官が国会で問いただされることもない。

 * * * * * * *

昨日、陸上自衛隊旭川駐屯地で隊旗授与式が行われた。そこで小泉首相が隊員に向けた訓示の全文を地元の新聞記事にて読む。

未だ政権再建のめどが立たず、治安も回復する兆しがない、いわば戦地に自衛隊員が赴くことへの是非、さらには自衛隊そのものの是非、アメリカへの追随だとの非難など、そういった諸問題からあえて切り離して……それは例えば『一人の人間』として『困っているもう一人の人間』に関わっていくという意味合いで……この訓示を読んだ時、今日本政府が行おうとしているイラク復興支援と人道支援は掛け値なしに素晴らしいことだと思う。そんな支援がボーダーレスにできるのなら、世界はもっと安定したものになってゆくだろうとも、思う。
しかし、もしもはあり得ない。切り離して考えることはできても、実際に切り離して行動することは叶わない。自衛隊員は通勤時のリュックサック同様、政治理念まるごと日本を背負ってイラクの地に向かうのだ。任務期間は一年。しかしその期間はあってないものと考えていい。私見だが、これまでの首相の発言や見解を知る限り、隊員の帰国は『任務を遂行した』時、つまり文字通りイラクが復興する時しかあり得ない。それ以外の理由を挙げ復興半ばで帰国したとしたら、それは『テロに屈する』ことになり、アメリカからの非難とイラクのテロ組織からの嘲笑は必至だ。

首相の訓示後半。原文のまま。

『自衛隊の諸君をイラクの復興支援に赴かせることに、政治的には賛否両論あります。しかし、反対する国民の中にも心の中では諸君の活動に声援を送っている人はたくさんいると私は信じています。口に出さなくても、諸君が立派に日本人として日本国家の大事な仕事を果たしてくれる、誠意と感謝の念を持って送り出そうという国民はたくさんいると私は信じております。多くの国民とともに、自衛隊の諸君は日ごろ厳しい訓練に耐えてイラクの地において立派に任務を果たし、無事帰国されることを心から祈念し、訓示に代えます』

邪心を働かせるつもりはない。その通りだと思う。『日本人として』でなくてはいけないかどうかは別として、『一人の人間』として大事な仕事を果たせたらこんな素晴らしいことはないと思っている。隊員の無事な帰国を、誰もが祈っている。私も、祈っている。
それらはしかし、先に書いた『諸問題からあえて切り離して』考えた時の私の気持ちであり、彼らは実際に日本政府の理念を背負って行ってしまうのだ。この訓示を述べた首相の内側をどう捉えたらいいのか、考えあぐねている。

私は、自衛隊員は政府が公表しているような短期間では帰ってこれないだろうと思っている。アメリカ兵もオランダ兵もみなそうだ。東ティモールの時とはわけが違うのだ。最悪の場合『日本人としての国際協力のため』にこれは自衛隊員だけの話ではなくなると思っている。
大げさな話だと思われるだろうか? 私は笑われるだろうか? そう遠くない将来、この『派兵』がきっかけとなり、日本内外で戦闘意識や体勢が高まった末に隊員が不足し、一般からも徴兵せざるを得なくなる時代がこないとは言い切れない。時代は戦前に戻りつつある、と、私は感じている。
#そして戦中へと。


追記(04/04/09):
私は自衛隊のイラク入りを派遣ではなく『派兵』だと捉えている。政府がいくら『アメリカの武器輸送には関わりません、ちゃんと線を引きます、これは人道支援です』と謳っても、当の自衛隊員一人一人がどんなに純粋な意思を持ってあの地に立っていたとしても、アメリカ追随の政府による派兵である限り、その意思は反対制力のもとには届かない。その証拠が、今回の日本人拘束だろう。予測はできていたじゃないか。
私は怒っている。戦争を許さない。劣化ウラン弾を許さない。テロリストを許さない。ブッシュを許さない。ラムズフェルドを許さない。自衛隊派兵を許さない。小泉政権を許さない。その政権を支持した者を許さない。許さないだけの自分を、許さない。
言葉を紡ぐものとして書き続けることで、私は関わり続ける。書く、ということを信じている。

#佐々さんの投稿作品とカブってしまった感あり、なのでこちらに記させていただいた。長文失礼。
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