07/26 06:40
ピッピ
芸大に入った僕は卒業も間近に控えていた。卒制は映画を一本取ろうとした。
しかしテーマ提出の〆切が迫っても、なかなか撮る題材が見つからなかった。
テーマが決まらない人のための講座が開かれた。そこで、
「どんなジャンルでも8分で人を感動させられる」
というような話を聞いた。そこで8分の映画を撮ることを考えた。8分の中で人を感動させることが出来るのか?
隣でまだ悩んでいるようだった可愛い女の子を誘い、映画のテーマを考えることにした。
僕はその女の子について撮ろうとした、どれくらい魅力的に撮るかで既に頭が一杯だった。
でも女の子は拒んだ。理由はよく分からなかった。
さっそく気まずい雰囲気になりながら、その場は解散することになった。
帰り、あるものを拾った。顔面岩のようだったが、その顔面は直線的すぎて、人工的だと思った。
そいつが喋り出した時に、僕はこれが人工のものだと確信した。
そいつには箱顔と名付けた。正体も分からなかったが、
そのシンプルな顔立ちから特に不気味さも感じられず、ファンタジック的要素もすっかり忘れていた。
喋れるようだったが、滅多なことでは口を開かなかった。
これについて撮ろう。でもこのことについては、女の子に言いたくなかった。なぜか。
「いいネタがあった」とだけ言ってすませたかった。言う前から、なぜか後ろめたさがあった。
(ここから先はなぜかほとんど箱顔との記憶しかない)
ある日、それは病気だったのか、僕が何か悪いことをしたのか、
箱顔の顔の上に白い粉のようなものが沢山積もり、急に老いたような苦しそうな表情をしていた。
急いで僕はそれを洗い落としたら、顔のパーツまでもがどんどん落ちていった。
間違ったんだと思った。そうしたら急に血の毛が引いた。箱顔はただの四角い石になっていた。
僕は一生懸命、目のあったところを何度もこすって窪ませ、鼻も、口も…
元あったところとは少しずれたけど、どうにか元のような形ができた。それでも箱顔は動かなかった。
箱顔が動き出したのはしばらく経ってからだったが、僕にとっては大した時間ではなかった。
あれ以来箱顔は僕に懇ろになり、前よりはよく話すようになり、よく笑うようになった。
新しくメンバーに加わったロボット(こいつも本当にロボット)と4人(?)で作業をしていた。
誰にもテーマを伝えないまま、映画を作り始めていた。
とても晴れた日だった。最初に、箱顔に伝えておくべきだと思った。
「おまえで、映画を撮りたいと思うんだ」
そう言うと箱顔は露骨に嫌な顔をした。今まで見せた顔で最高に嫌な顔だった。
そして背を向け、言葉を閉ざした。僕はなんとか説得しようとしたが、箱顔は逆ギレした。
「本当に、知らなかったのかい?」
その言葉の意味が分からなかった。女の子の方を見ると、憐れみの目をしていた。
二人は、僕が知らない何かを知っているようだった。僕は素直に「分からないよ」と答えた。
すると箱男は背を向けたまま何処かへ進み始めた。尾いて来い、という意味だと思った。
背筋が顫えた。映画を撮るよりもっと、重要なことを知ってしまう気がした。
そう思ったら目が醒めた。時計を見たら、寝てから3時間しか経っていなかった。