2004 08/26 18:14
佐々宝砂
もうすぐ卒業式のような気がした。私は夏の白いセーラー服を着て、晴れ着にアクセントを添えるジュエリーを買うために宝石店にいた。ハートをかたどったピンクの水晶の安っぽい指輪を買おうと思ったら、眼鏡をかけた中年オトコの店員が葡萄のかたちに並べられた小さいけれど色濃い紫水晶のブローチを薦めた。あわせてたかが5千円ほどだが私はためらった。わずかな買い物に躊躇している私はたぶん高校生なのだろう。セーラー服の半袖から灰色のTシャツがはみだしているので、それが気になって仕方なかった。卒業式には大人びた臙脂のスーツを着るつもりだった。
9月3日は特別ご開帳で、お寺の境内にある茶店の二階に人が集まる。特別ご開帳の掛け軸をみるためには、茶店の二階座敷窓際にへばりついてとびあがらなくてはならない。そうしなくては見えない掛け軸は、人に「とびあがり幽霊」と呼ばれていた。私は茶をすすりながら夫と順番を待っていた。私の番がきてとびあがると、お寺の二階にある障子の上の隙間から、大きな古ぼけた掛け軸がちらりとのぞいた。何か描いてあるようではあったけれど、幽霊が描いてあるかどうかはよくわからなかった。結局そんなものなのだろう。帰りに茶店の一階で、一枚売りの小判型のせんべいを買った。せんべいには占いが書いてあるというので見ると、「吉三輪廻三吉」とある。どういう意味だと店のばあさんに訊ねたが教えてくれなかった。