2010 09/06 14:08
ふるる
カズオ・イシグロ「わたしを離さないで」を読んで
私がこれを読むのは二度目です。一度目は、去年の春くらいで、読んでいる間中ドキドキして、はーはー息をつきながら読みました。読んだ後もしばらく呆然となり、すごい残酷だけどいい話を読んじゃった。という気持ちでいっぱいでした。でも、二度目はそんなこともなく、結末が分かっているというのは悲しいことだなと思いました。でも、何度読んでも好きだなと思うところはあります。
この本の中で一番好きなところは、キャシーがトミーと一緒に「わたしを離さないで」の音楽のテープを探して、見つかるところです。愛の告白はないけれど、トミーがキャシーのことをずっと好きで、その気持ちが全部キャシーにわかってもらえている、という場面です。(キャシーは何も言ってはいないけど。)その時、トミーに彼女がいようが、その後キャシーとトミーがくっつこうが別れようが、あの思い出があれば、その瞬間も、その後も、二人は完璧にいいカップルなんだと思います。そういうのは、クリスマスに素敵なシーンを演出することとは全く違って、相手を思う気持ちが自然にいい場面を作っていく、ということなんです。一方的には実現しなくて、お互いの気持ちが合わさっていないと不可能なんだと思います。あと、そういうことが起こるのはその時だけが大事なのではなくて、長い間培ってきた二人の関係や、それぞれの頑張りが作用するんだと思いました。
この小説は救いというのはほとんどなくて、最後まで読むのがすごくつらいのですが、それだけにあの場面が、暗闇にぽつんと浮かぶ一粒の星のような輝きを放っています。
私も、大好きな先生とそんな場面を作りたいです。