題名だけのスレに詩をつけるスレ[10]
2008 05/05 03:05
楢山孝介

「オーロラの渡り」(小池房枝さん)


今年も極北から
偏北風に流されて
見慣れたオーロラが渡ってきた

突然変異した自然現象
変異体は変異体を産み
光の速さで進化は進み
今や分類不可能となった幾億種類のオーロラが
新たに生まれ
また滅び
風に散らされ
海に溶けていく

我が家の建っている土地はかつて
オーロラの観測が可能な
最南端に位置していた
観光客を迎える宿として
他の多くの家々とともに
長い間栄えてきた
今では少しでも寒いところがあると
オーロラたちは
何のありがたみもなく現われてしまう
もう誰も泊まりには来てくれない
長年オーロラに頼ってきた人々は
土地を捨て
よそへ移っていった
散っていった
溶けていった

アウロリア・ソラリス
毎年我が家の上空に現われるオーロラの学名
まだ分類学者たちが分類することを諦めていなかった頃
最後にうちに泊まっていった男が
仰々しい観測機械で調べてくれた
見る人の望む形に姿を変える
オーロラ類としては原始的な種類

とてもぼんやりとしていますが、
若い頃のあなたの姿が見えます
と、元々馴染みの客だったその男は言ったが
私の目には
子供の頃から見慣れている、
親たち祖父母たち先祖たちが見続けてきたであろう
何の変哲もない
突然変異前のオーロラが
光り輝いているだけだった

風向きが変わり
季節が変わり
アウロリア・ソラリスが去った後は
空を見上げることは少ない
誰も訪ねてこなくなった、
我が家の隅には
時折
小型のオーロラが光り輝いている


#スタニスワフ・レム『ソラリス』(沼野充義訳 国書刊行会 2004)を読み終えた日に。科学的とか生物学的なあれこれはいい加減。

#5/8追記

小池房枝さん、レスありがとうございます。
http://po-m.com/forum/thres.php?did=153428&did2=66
今自分で読み返すと、突っ込みたくなるところが多々あるものの、ともあれ、
書いて良かった、と思います。
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