05/19 23:09
ドジ
doji52
往復書簡
はあはあと息を切っていつもぼくは20キロの道のりを自転車で通ったのだったね。
工場の煙突があり、高速の下をトラックが走り、ドブ川が流れ、砂利道からは砂ぼこりがたった。
携帯電話も郵便局も嫌いだときみがいったので、ぼくはそうしたのだ。たったひとこと「うん」と返事をするのにも往復二時間をかけて阿倍野から藤井寺までを走った。花が生けられた柵の上の郵便受けに封筒を投函し(ときには葉書を)ふたたび自転車をこいで家路についた。あのころの汗のなんと爽やかで気持ちよかったことか。
ベランダの窓からシャツを風になびかせてあなたが走ってくるのをいつも息を飲むように見守っていました。髪はライオンの鬣(たてがみ)のようになびき、必死のあなたの形相。まるで飛び散る汗が目に見えるようでした。
そして、手紙を投函したあなたが、窓の方にちらっと視線を泳がせて名残り惜しそうに帰ってゆくのを、いつもじりじりしながら見送っていたのです。あなたの姿が消えたら、すぐに階段を走り降り、手紙を鷲掴みにしてまた二階のお部屋に駆け上がったものです。
すぐに開封したいのを我慢して、おあずけをくった犬みたく手紙を前に正座し、息を整え、わざとお湯など沸かしてお茶を淹れたりしました。
それから、もう我慢ならぬとばかりに狂おしくあなたの手紙をむさぼり読んだのです。そこにはたった一行
「おはよう」とだけ書かれてあったこともありました。
それからわたしはトレパンに着替え、運動靴を履き、ふふふ、20キロ往復のマラソンに出かけるのでした。あなたに新たな手紙を届けるために。
つづく