400字コラムあるいは情景描写道場[10]
2007 07/26 08:39
mizu K

「牛飼いの家」

ぎらぎらした太陽と耳を圧する蝉しぐれのなかを歩いている。棚か
らぶらさがったトマトやキュウリなどの蔓性の野菜をなぞり、橋の
手前で左折して歩く。ましろい舗装されたコンクリートの道を歩く。
左手は石垣、右手は畠と丈の低いツゲの木など。シュロの木は去年
の台風で倒れてしまった。そこからゆるく左にカーヴしているその
坂を下っていくと、牛小屋が見えてくる。黒い牛がときどき鳴く。
飼料に顔をつっこむ音。道向かいに農機具を置く小屋と缶けりので
きる庭、そこから母屋まで庭を横切る。ごめんください。回覧板で
す。がらりとあけると火照った体に冷気があたる。なかはひんやり
としている。入って20畳ほどの土間。その先に掘りごたつのある居
間、左手は座敷。薄暗い室内に目が慣れずしばらく佇む。風が通る。
背後から牛の鳴く声がきこえる。返事はない。もう一度声をかける。
待つ。それから土間を横切り、上がり框に置く。それから光のあふ
れる戸口に向かう。

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