大人になる
さくらほ

勤める店のある街には
空は上にしかない
疲れた街路樹から
遥かに上
高く遠く硬い

季節は駆け足で過ぎてゆく
日々は戻らぬから
私は大人にしかなれず
この街が似合う年になって
この街が似合わぬ年になってゆく

カツカツと音を立てて
早足で歩けるようになったのは
人の波からはじき出されぬように
前だけへ進んできたから
声を出さずにニコリと微笑むのが上手になったのは
正面からぶつかってばかりでは
傷だらけになってしまうことに気づいたから

いつごろからだろうか
自分の青春時代を
浅い夢だったかのように感じ始めたのは
あんなにも抱えきれぬものを抱えながら走り続けてきたのに
確かに私はいたか
あの頃の私は今の私とちゃんと繋がっているか


奪われたもの
満たしてゆくもの
季節は繰り返すけれど
同じ日々はどれだけ探してもみつからない
間違い探しのように
ちょっとずつ違っている


煙草の吸殻の落ちた路上禁煙地区を
くるくると色とりどりの落ち葉が揺れる
乾いた空気が三時の光と共に
少し重たげな付点四分音符になって
私を通り過ぎる
また一つ
季節は私を捉えた


自由詩 大人になる Copyright さくらほ 2006-12-28 18:51:44
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