まだ生きています
若原光彦

今日からちょうど一週間前
私は死にました
居眠り運転で突っ込んできた
トラックにはねられたのです
ビルの壁面に叩きつけられ
頭蓋骨骨折で即死でした
あまりに一瞬の出来事だったため
何が起こったのかわかりませんでした
それでも私は生きています

そして翌日
私はいつも通りの夕食を食べ終え
お風呂に入っていました
なんだか外が騒がしいと思い風呂から出ると
廊下が炎に包まれていました
そして私は死にました
焼死したのではなく
一酸化炭素を吸い込んで酸欠になったのです
煙で出口がわかりませんでした
それでも私はまだ生きています

そんなことがあった次の日
私は何事もなく職場に向かいました
食事は駅の売店で買って済ませました
ホームで列車を待っていると
よろめいたおばあさんに突き倒されました
私はホームに転落し
入ってきた列車の車輪に切り刻まれました
バラバラ死体が一セット出来上がって
私は死にました
竹を何本もまとめて踏み潰したような
酷い音がしたのを覚えています
それでも私はこうして生きています

そして今日からちょうど四日前
私は何もかもが嫌になって公園でじっとしていました
空は曇り空でした
何時間雲を眺めていたかわかりません
午後になると空腹に襲われました
あまりにおなかが減っていたので
買い物に行く気も起きませんでした
私は自分が惨めになって
公園のぶらんこによじ登り
ぶらんこの鎖で首を吊りました
そうして私は死にました
自分の体の重さが首に集まってきて痛かった
それでもほら私はまだ生きています

私が公園で死んだ翌日
私は考えを変えることにしました
ひどい人生かもしれないが
人の役に立つことぐらいあるだろう
私は町のごみを拾いながら歩いて歩いて
ごみ箱を見つけると拾ったごみを捨てて
またごみを拾って歩いていきました
気がつくと私は見知らぬ土地にいました
ヘルメットを被った人がいたので私が近寄ると
相手は一目散に逃げました
私はおーいこの辺にごみ箱はないですかあと叫びました
相手は何も言いませんでした
そのかわりにライフルで数発私を射ちました
私は地面に倒れこんで
その拍子に地雷に触れて爆死しました
私は両足を失い出血多量で死んだのです
それでも私はまだ生きています

そしてほんのおとついのこと
私は見知らぬ土地の名も知らぬ病気にかかって死にました
おなかがすいてめまいもしていたので
適当に果物をもぎって食べたのが
いけなかったのかもしれません
私が脂汗を浮かべて倒れていると
ひとりの女の子が通りかかりました
女の子は私を見るとやはり一目散に逃げました
そして大人を連れて戻ってきて
私に火をつけて焼きました
私はご迷惑おかけして申し訳ありません
と言いたかったのですが朦朧として何も言えませんでした
私はただ焼かれるままでした
そうして私は死にました
それでも私はまだこの通り生きています

そしてこれは昨日のことです
私は家に帰って焼け跡からナイフを探しました
いつもジャガイモの皮をむくのに使っていたやつです
魚をさばくのにも使っていました
台所の消し炭から見つかったナイフは柄の部分が溶けていましたが
ナイフとしての機能は失っていませんでした
私はナイフを両手で握ると
刃を自分の胸に突き刺しました
まだちょっと浅いと思ったので
刃が深く食い込むように
うつぶせに倒れもしました
そうして昨日私は死にました
どうせ死ぬならやっぱり自分の家がいいと思ったのです
それはともかく
私はやはりこうしてほら生きています

そして今日ついさっきのことです
私は今日どうやって死のうかと考えていました
そんなに毎日死ぬことはないじゃないかとも思いましたが
どうにかする必要があるようなそんな気もしたのです
もう何もしたくないという気持ちと
何かしなければならないという義務感と
そのはざまで私は迷っていました
これが私の一週間の出来事です
そして一週間に一日ぐらいは休日にすべきだと
私は明日までこうして生きています


自由詩 まだ生きています Copyright 若原光彦 2006-12-21 01:16:04縦
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