遠雷
千波 一也


くちびるは濡れるから
ことばもいつか
濡れてしまう

めぐみと呼ぶには
砂ぼこりが多すぎる



古びてゆく壁に耳を寄せたら
わからない音だけが
あふれて

古びていたのは耳のほう


 雨の
 ほんとうのはじまりには
 かならず遅れてしまう

 あしもとで
 草が揺れても
 教えているかも知れなくても



ここから遠い駅はどこだろう

もっともいたまず済むように
もっとも長い道のりの
ふかい浅瀬は
どこだろう



遠雷がひとつ

つもりはなくても聞いてしまう
拒むつもりもないけれど
それゆえ距離が
気にかかる


遠雷がひとつ

だれかが灰に変わるなら
それだけで晴天
ただそれだけで



 ふるえる瞳に音はなく
 知らない帰路が
 まっすぐ滲む



あかるい闇はどこだろう


咲けない傘を
かたわらに
待つ




自由詩 遠雷 Copyright 千波 一也 2006-12-20 17:33:50縦
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