曲線と直線/ゆくりゆくりと、ふたり
士狼(銀)

老いた驢馬はゆくりゆくりと歩む
赤茶けた泥濘に蹄は重く
驢馬の道程に気紛れな心が曲線上に見える


黄昏時に直線は 物悲しいと私は思うのだ

老いた犬が老いた驢馬に並び
二つの足跡が
交わり重なり連なって
ゆくりと続く
驢馬は夕空の星に詳しく
犬は無償の愛を愛していて
泥まみれのふたりは
色鮮やかな、少し霞んだ、愛について語り
美しい、恥ずかしがり屋な、星について学び
ふたつの影は
微かに橙色に染まって往く
小さな足の小さな老いた犬は
大きな老いた驢馬の小さな蹄にキスをして


曲線の美しさは 時に直線に優るだろうか

問いかけは謎解きと裏切りに満ち満ちて
ふたりは明日を知らないが
次にまた
互いが互いの帰り道を横切るならば
今までのふたりの道程を
一緒に眺めてみたい
そう、
心に仕舞い
さよならもなく
しかし確かに情愛と言えるような糸を結び
老いた驢馬はゆくりゆくりと歩み
老いた犬は温かい家へ
ゆくり
ゆくりと
泥濘に小さな爪痕を真っ直ぐ置いて歩く
少しだけ欠けた月が
ふたりの背中に優しく微笑みかけていた




驢馬…ろば
泥濘…ぬかるみ
道程…みちのり
橙色…だいだい


自由詩 曲線と直線/ゆくりゆくりと、ふたり Copyright 士狼(銀) 2006-12-13 22:05:48
notebook Home 戻る
この文書は以下の文書グループに登録されています。
獣化